今年度、最終回となる第8回『TUINS Book Cafe』を開催しました!
『TUINS Book Cafe』とは教員がカフェ・オーナーとなり、教員自身が「学生時代に読んでおいてよかった!」「この本を読んで人生が変わった!」…など「とっておきの1冊」を選び学生の皆さんに紹介するという企画です。
今年度、最終回となる1月19日(火)に開催された第8回『TUINS Book Cafe』では、環境デザイン専攻の上坂博亨先生をカフェ・オーナーに迎え、選書である『高熱隧道』(吉村昭著)をご紹介いただきました。
「黒部川第三発電所。前人未到の断崖絶壁に道を作り、地熱で200度を超す岩盤にトンネルを掘り、幾多の犠牲者を伴って完成した歴史的水力発電所です。富山県人なら是非一度は読んでおきたい、黒部川電源開発のノンフィクション小説です。」という同著は、電源開発の最好適地として注目された人跡未踏の黒部川上流の黒部峡谷に、第二次世界大戦中のエネルギー不足を補うための国策として進められたダム設置に関わる史実に基づき描かれています。
資材を運搬する際、転落死する者が出るほどの険しい峡谷、トンネルを掘り進む中で岩盤温度が摂氏160度以上に達し、ダイナマイトが自然発火するほどの熱源との闘い、厳冬期での作業など過酷な自然の脅威、難工事を進める中で多数の死者を出し、工事関係者と人夫との間に生じる軋轢など、その情景がリアルに浮かぶほどの史実に圧倒されました。
今回は、オンラインでの配信のみとなりましたが、約10名の学生や関係者の皆様にご参加いただきました。参加いただいた皆様からは、「宇奈月温泉の歴史的背景を知り、興味が湧いた」「黒部川の電源開発の起源を初めて知った」との意見や、郷土史を研究しておられる方からは、過酷な環境において事故で亡くなった人夫の中には多くの朝鮮人労働者も含まれており、宇奈月温泉の郊外にはその方々をしのぶ慰霊碑が建立されていることもお聞かせいただき、「生者が死者の遺志に思いを馳せている限り歴史は歪まないと思います」というコメントもいただきました。
私たちが何気なく恩恵を受けている歴史的な偉業や大事業の背景には、過酷な史実があることをあらためて感じました。史実から語られていない背景を読み取り、そこから何かを学び、次の社会に活かしていく役割が今を生きる私たちに求められているのではないでしょうか。潜在的な社会問題や史実を明らかにすることにこそ、社会学の意義があるような気がします。上坂先生がおっしゃられるように、富山在住の1人として、読んでおくべき著書のように思われました。
今回をもちまして、今年度8回にわたり実施してきました『TUINS Book Cafe』が終了します。まずは、ご多忙な中、ご協力いただきましたカフェ・オーナーの皆様をはじめ、開催に際しご協力いただきました本学事務スタッフの皆様、そしてご参加いただきました学生・関係者の皆様にこの場をお借りし、厚く御礼申し上げます。
主催者として、率直な感想を申し上げますと「実は私自身が一番楽しい至極の時間を過ごさせていただいたのではないか」と思っています。そして、色々な気づきがありました。次年度は、装いを新たに『TUINS Book Cafe』を続けていく所存です。春の再オープンを乞うご期待ください。
(文責/一井崇・観光専攻)